経済不祥事に見る利益や損失の概念その2

投稿日:2012年05月07日

1. 新興企業の経済不祥事

前回のコラムでファンドを利用した経済不祥事についてもう少し触れると述べましたが、ここでは話題になった新興企業の経済不祥事について述べて行きたいと思います。

新興企業はファンド設立に際し、現金ではなく自社株を放出しこれを出資金に充当したものです。ファンドはこれを受け、拠出された新興企業の株式を拠出価格を大幅に上回る形で転売し、転売益を計上し、ファンドとして利益を計上し、解散。新興企業はファンド解散に伴い、結果として自社株の転売利益をファンド解散益として損益計算書に計上したものです。

その新興企業は個性的な発言をする若手経営者がいて話題になったこともあり、私は多くの人に聞かれたものです。会計上、あの処理は粉飾と言えるのか?現金の裏付の有る多額の転売益が出ているのであれば問題ないのではないかと。私自身は問題のある会計処理であると言う立場をとり、その際、資本と利益の分離、恣意性と言う二つの言葉を用い彼らに説明したものです。

2. 資本と利益の分離

まず、資本と利益の分離ですが、これは株主との資金のやり取りは資本取引として、製品の売買や利息の支払受取など会社業務から発生する収益取引とは区分し、決して混同してはならないというものです。これは会計上の有名な原則です。

自社株も売買出来る点から見れば金融商品のようですが、通常の株式と違い、自社に有利、不利な経営上の情報発信(以下IR)のタイミングを操作することで株価の操作が容易である点が通常の金融商品と異なります。加えて、資本取引については会社解散の際に株主に払い戻される性質のもののため、株主有限責任に基づく資本金制度により、資本金、資本剰余金の枠内で処理をし、利益との区分を管理しなくてはならないと言うのが教科書などに記載されている理由です。

上記を鑑みた上で評価すると、くだんの新興企業の経済不祥事については、個人的に以下の点が不審に感じたものです。直接自社株の売買をせず結果としてファンドを通す形になったこと。そのファンドはすぐに解散したため目ぼしい活動が自社株の売抜けのみになったこと。何より不審に感じるのは売却の前にあまり実態の無い出版社を子会社化するIRを発表し、結果株価が高値で売却されたことです。

従って、ファンドが金融商品と分類されることを良いことに、ファンドを実質子会社として本来禁止されている資本取引の収益取引付け替えを偽装したと当時の監視機関証券取引法委員会から摘発されたものです。

前回の私の経済不祥事の分類によれば、上記新興企業の例はファンド精算による現金の回収と言う『実現性』は備えているものの、それが損益計算書上の利益ではなく、株主資本等変動計算書の資本剰余金増加として会計処理すべきであったという『表示分類の妥当性』の問題に相当すると考えるものです。

3. 恣意性

次に恣意性について説明しますが、これは自分に都合良く変更することが出来ると言う意味で使われます。例えば、有価証券の時価の概念を有る年は3月31日の末日ベースにしていたが、有る年にはより時価が高くなる3月平均の月ベースに変更すると言った具合です。

会計処理はこのような利益操作のための恣意性を排除することを目的に、正当な理由なく会計方針の変更をすることを禁じているものです。資本取引はその意味で極めて恣意性が入りやすい取引と言えるのです。そのため、俗に言うインサイダー取引として、規制を厳しくし、重要な会社情報の市場発表前に自社株を個人的に売買することを諸関係者らに禁じているものです。

4. ファンドを用いた最近の経済不祥事

ファンドについてもう少し述べると、このような経済不祥事を受け、従来金融商品として扱われることが多かったファンドが出資関係によっては組織体の連結子会社として扱われるとした規定が新たに設けられたものです。

しかし、昨年世間を騒がした経済不祥事はファンドに出資すると連結子会社として扱われてしまうため、代わりに手数料を多く払う処理をしたものです。こうして出資関係はないため第三者としつつも、実質のオーナーとして含み損の有る株式を引き取らせるなどの指示をしたとされているものです。また会社買収時の評価を高く設定することでのれんを過大に計上したものです。こうするとのれんの評価損が多額に計上されますが、後述の本来の有価証券の評価損が隠蔽されたのです。

つまり、支払ったお金は含み損を隠していた有価証券の簿価でファンドが購入するまず原資になります。こうすれば、有価証券で本来は発生したはずの多額の評価損や売却損を回避できるのです。このスキームは本来はずっと前にPLに計上すべき投資上の損失を先送りし、有価証券の評価損を計上しない代わりに会社買収の過大評価によるのれん評価損を計上した、いわば損失の付け替と言う不正となります。その意味で、この経済不祥事は、投資損失を業務損失に期間を変えて計上した『表示分類の妥当性』の問題に分類されるでしょう。

5. 利益の概念とは何か

ここで本題の利益損失の概念を経済不祥事のパターンに分けて再度整理したいと思います。

まず、架空売上のように貨幣の裏付すなわち『実態』のないものは利益損失の概念にはそもそも当てはまりません。同様に『実態』のあるものでも『資本』は『利益』ではありませんのでこれも利益の概念には当てはまらないものです。『損失補填』の場合には『実態』としての利益は存在するもののこれを計上せずに『投資損失』と相殺するは『表示分類の妥当性』から問題有りとなるものです。先に説明した経済不祥事は『投資損失』を『のれんの評価損』に付け替えていたものも含め、これも『実態』はあるものの『表示分類の妥当性』から問題となり『利益』を歪ませていたものです。

このように経済不祥事に見る利益損失の概念をパターン化してまいりましたが、次回は最後として『評価損益』と利益の関係について説明していきたいと思います。


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