会計基準改正時に見えてくるIFRS情勢

投稿日:2012年01月10日

1. 米国会計基準(US GAAP)の使用延長

新年明けましておめでとうございます。

寒さが続く中、皆様も仕事始めも無事終わり、通常業務に戻られたことと思います。思い返すと昨年は災害など考えさせられることの多い年でありました。一日も早い復興を心から願い少しでも自分にできる事を続けてまいりたいと思っております。日本経済は相変わらず不透明な状況ですが皆様のご健康とご発展をお祈り申し上げる とともに、これをもって年初の挨拶とさせて頂きます。

本年も(株)インプレスの会計コラムを昨年に引き続き宜しくお願いいたします。

さて、日本では経済のグローバル化の要請から、将来に向け日本の会計基準(JP GAAP)を欧州発祥の会計基準(IFRS)に2015年か16年に全面的に切り替える方針を東京合意で表明していました。しかし、そんな中、先の東大日本大震災を受けIFRSへの全面移行は早くても17年以降と延期されたものです。

対して、米国会計基準(US GAAP)について述べますと、上記IFRSへの全面移行に向け使用期限を設け、16年3月期までで使用終了するとしたスケジュールが逆に延長されました。

2. IFRS全面適用時までにUS GAAPを禁止する必要性

実は日本の上場企業の中にはNY市場にも株式上場している企業も有り、US GAAPは現在、IFRSよりもずっと多くの企業で採用されているものです。

また、その多くの日本企業がIFRSには抵抗を示す一方、適用しているUS GAAPについては、上記の16年3月期までと言う金融庁からの使用期間の制限の指示に対して適用の延長を求める声を前から挙げていたものです。

このUS GAAPの使用期限については、東京合意に合わせ、連結財務諸表規則等と言う会計基準を改正し、2016年3月期までするとそもそも決められたものでした。これを定めたのは金融庁傘下の組織、企業会計基準委員会と言う組織です。その際、上記反対を受け、企業会計基準委員会は、以下のコメントでUS GAAPの使用期限を設けることは避けられない旨を表明したものです。

いわく、IFRSもUS GAAPも原則1つの会計基準の使用しか認めていないため、日本基準に代わり、どちらかを採用した場合どちらかの採用には全面移行までに使用期限を設けることが必要である旨。そしてIFRSとUS GAAPを比較するとその基準を制定する組織に日本人メンバーが参加できるのはIFRSであることを理由にIFRSへの移行を決めた旨などです。

続いて、日本のリーディングカンパニーがUS GAAPを使用し続けることを論拠に米国が世界統一会計基準としてIFRSよりも優位性を主張する懸念もあることなどを理由に2016年までと言うUS GAAPの使用期限を設けることの正当性を訴えたのでした。

3. 日本における基準改正時の手順

前のコラムでも述べましたが、連結会計基準などの改正は実は経理処理が変更されるだけではなく会社の業務全般に影響を及ぼす事象です。

そこで会計基準改正の際には、企業会計基準委員会はいきなり改正会計基準を公表するのではなく、公開草案、そしてそれを見た有識者、企業関係者などの諸関係者からの意見を反対意見も含めまとめ、このようにそれらにつきコメントを表明すると言う手順が取られているものです。

先の東日本大震災を受けての会計基準の改正によるUS GAAPの使用期限の延長についても同様の手順を踏まれたものです。そんな、今回のUS GAAPの使用期限の延長についてですが、実はここでもある論点が挙げられたものです。

すなわち、既存のUS GAAP採用日本企業が16年3月期以降も適用を続けられるのは当然として、延長期間内において他の日本企業が新たにUS GAAPを採用することにつき禁止とするか許可をするかどうかです。

結論は、新たに日本企業がUS GAAPを採用するのは問題ないとしたものです。

対して、公表された反対意見、すなわちIFRS全面移行強硬派の意見では、『IFRSの全面移行の方針には変わりないのだから既存のUS GAAP採用日本企業にのみ2016年3月期以降の使用も認めるだけで十分であり、新たな日本企業にUS GAAP採用を認めるのはIFRS全面移行の際に無用なコストを発生させるので反対』としたものです。

4. 会計基準変更の内容のいち早い理解と業務に与える影響把握の必要性

それに対する金融庁が表明したコメントが現状のIFRSとUS GAAPの趨勢を象徴しており、非常に興味深いものでした。いわく本改正は先の連結財務諸表規則改正時に米国基準の使用期限を設けた規定を、改正前に戻すものである。従って、既存のUS GAAP採用企業に加え新規に新たな日本企業がUS GAAP採用しても何の問題も無いと回答しているのです。

何か、以前はIFRSの全面適用一辺倒だった時の流れが、一気に逆に戻された感じです。今回の回答を見るとIFRS積極派に対して、冷淡なものになっていると思いませんか?

リーマンショック後のアメリカ、インドのIFRS全面移行延期やそれを受けての慎重派の自見金融担当大臣の積極的な見直し発言を受け金融庁が、IFRSの全面移行に対してのスタンスを変え始めたのではないかと私は感じました。

こんな風に裏の意図を読んでいくと、会計基準の改正時の金融庁のコメントにも色々な想像が働きます。皆様も制度改正の裏で色々な駆け引きドラマが在ると思えば、少しは専門用語羅列で詰まらないと思われがちな制度改正の条文にも興味を持てるのではないかと思うものです。


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