IFRS導入に伴う
新たなる会計のトライアングルの始まり
その1

投稿日:2013年02月04日

1. はじめに

現在、日本の会計は大きく3つの制度に支えられています。それらはそれぞれ一つは会社の株主、債権者保護を目的に定められた会社法、もう一つは税金の申告などの際に遵守すべき法人税法、最後は上場会社など株式発行による資金調達や一定の規模の会社に際し適用される金融証券取引法といった3つの法律によるものです。

まず金融商品取引法について簡単に説明しますと、現在は金融ビックバン後の諸制度の改正を受け改正されていますが以前は証券取引法と呼ばれていました。この法律は主に上場会社を対象にしていますので、上場株式を購入売却するいわゆる投資家保護を目的にするものです。

同様に会社法についても簡単に経緯を説明しますと、かつては商法と呼ばれ株式会社を対象にしていたものですが海外の様々な企業再編などに対応すべくより広い範囲を対象に改めて会社法が制定されたわけです。

法人税法は国などを主体に税金を徴収することを目的に定められた事業体を対象にした所得税法の一種です。

2. 対象、目的の違いによる会計処理の違い

ここで表題の説明ですが、日本の会計処理はこの3つの制度のルールに縛られているものです。そして改正前、商法や証券取引法の時代トライアングル状態で三すくみの状態であると呼ばれていました。

なぜなら対象、目的の違いからこの3つの制度は会計処理や開示は大きく異なっていたからです。企業会計原則の一般性の原則の一つである、「正規の簿記の原則」に従い、どの制度も帳簿に基づく会計処理と言う点では共通していましたが、算出される最終利益は以下の範囲で時に異なるものでした。

特に税法においては税金納付の根拠となる所得を算定することを目的にしているのですが、この計算範囲が時に証券取引法や商法と異なるので数値が変わっていたものです。とは言うものの法人税法においては、証券取引法、商法における利益に相当するものがこの所得なのです。

証券取引法、商法においては会社の決算は収益から費用を控除し、利益を算出します。対して法人税法では益金から損金を控除し所得を算出するのです。

証券取引法は投資家と言うもっとも専門性の高い関係者を保護するために、開示内容も複雑で多く設定し、会計処理も保守主義の原則などを多用し貸倒引当金などによる見積りによる損失計上も早め早めに行うものでした。

対して、商法は債権者保護、株主保護の観点で大筋は証券取引法と同じ考えに立つものの、上場会社と異なり、会社の規模が通常大きくなく株主も限定されている、また会社の規模から限られた経理の体制しか整備されていないなどの事情を考慮し、証券取引法ほど厳格には債権分類による貸倒引当金計上を要求しないなどの経理処理を容認したものです。

その一方で、法人税法においては税の徴収を第一義の目的とし、保守主義とは間逆の税収を下げる損金の計上は見積りによる計上は制限し、計上自体も裁判所による破産勧告などの第三者的事実が確定しない限り認めず、逆に益金は可能な限り早めに見積り計上することを容認したものです。

上記の目的の相違から同じ帳簿の数値によっていても法人税法では所得が大きく算定されがちとなり、証券取引法では利益が最も厳格に計上を制限されるといった違いが出てきたのです。

この違いを調整する作業として税務申告の際に、商法や証券取引法で算出した利益を基にしながらも費用ではあるが損金にはならないものを損金不算入とし、逆に収益にはならないが税務上は益金となっているものを益金算入するなどの所得計算をするのです。これらが決算後に行われる税務調整と呼ばれるものです。

日本は諸外国に比べ税務と商法、証券取引法の乖離が激しくトライアングルと揶揄されていたものです。韓国などはその調整の煩雑さから当初は会計の参考に日本の制度を模倣しようとしたもののドイツに切り替えたと当時は言われたものでした。

3. 対象の違いによる開示の違いとその調整

そんな中、税効果会計、退職給付会計などのいわゆる会計ビックバンを境に証券取引法の開示は複雑さを増していきました。またそれまでの単体中心主義から連結中心主義に代わり、結果として非上場であっても公開会社の連結子会社は証券取引法適用親会社と同様の経理処理を求められるようになりました。

しかし開示は、それでも勘定科目の名称、集約ルールなどが証券取引法と商法では大きく異なり証券取引法対象の上場会社の経理担当者は、株主総会向けに新たに商法向け決算書類を作成し直していたのです。

このような証券取引法と商法の開示の断絶は、会計ビックバン後の開示の複雑さを理由に見直されることとなりました。まず開示の事務付加を抑えるため上場会社は証取法の様式をほぼそのまま商法の開示に使用出来るようになり、やがて金融商品取引法、会社法の改正の際には上場企業においては両社の開示、会計処理にほとんど調整の手間は掛けずによくなったわけです。

一方で法人税法においても、連結納税制度の導入にはじまり、引当金制度の見直し、組織再編税制なども施行され、会計ビックバン到来の際に導入された税効果会計により所得と利益の範囲の違いについても合理的に企業会計に織り込めるようになったのです。

こうして現在においては三すくみのトライアングルと揶揄されたそれぞれに処理が異なり一から作り直すのに近い手間が掛かっていた昔の大変さからは解放されたように思います。

4. IFRS到来による新たなトライアングルの兆し

しかし、ここで新たなトライアングルが生じる兆しが出てきたものです。IFRSの改正は当初は先の東日本大震災の発生を受け延期しましたが、今年本格的に再開したものです。退職給付会計制度をIFRSに合わせ改正するというコンバージェンスの詳細が発表されたものです。

ここで先の会計ビックバンではトライアングル解消に向かった制度改正がなぜIFRSでは再び生まれようとしているのか?

それにはIFRS対応における日本の対応の方針が大きく関連していますので次回は新退職給付会計基準を事例にこの点を具体的に説明したいと思います。


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