『売却目的で保有する非流動資産及び非継続事業』
における別掲表示

投稿日:2013年01月07日

1. はじめに

新年明けましておめでとうございます。

寒波が続く中、皆様におかれましては暦上、本日より通常業務の会社様が多いことと存じます。昨年は、国民の大きな期待を受けてようやく政権交代を果たした民主党が、その後、「普天間問題」「震災対応」「領土問題に端を発する日中関係悪化」などの失政を契機に再び自民党に政権与党の座を明け渡すこととなりました。一向に進まない震災復興など暗いニュースが続く中、明るい話題といたしましては、「ロンドンオリンピックにおける日本人選手の活躍によるメダル獲得数の躍進」「山中教授のノーベル医学賞受賞」などもあり、とりわけ山中教授のノーベル賞受賞には日本の技術の底力を見ることもできました。しかし、翻って見るに日本経済は政権交代によるアナウンス効果もあり、株価高、円安の進行等、明るい兆しはあるものの、依然としてデフレ経済克服の具体的な処方箋は出ておりません。まだまだ厳しい環境は続いておりますが、皆様のご健康とご発展をお祈り申し上げるとともに、これをもって年初のご挨拶とさせていただきます。

本年も(株)インプレスの会計コラムを引き続き宜しくお願いいたします。

前回は有給休暇引当金と言う日本の会計処理にはない引当金を取り上げ、そこから日本より負債概念が広い国際会計基準(以下IFRS)考え方を説明いたしました。

今回はIFRS5号で規定されている『売却目的で保有する非流動資産及び非継続事業』における別掲表示について述べて行きたいと思います。

2. 売却目的で保有する非流動資産とは?

IFRSは直訳されるケースが多いので語句としては日本語に馴染み難いものが多いのですが『売却目的で保有する非流動資産』と言うのも多聞に漏れず直訳調の日本語となっています。要は、来期以降売却が決まっている資産と言う事です。売却が決まっているのですから、他に換金可能性はなく、そのため流動資産ではなく非流動資産とするものです。

例えば、業績の関係で来期ある事業から撤退し解散する事業部門があるとします。あるいは売却が決まっている子会社があるとします。IFRSではこれらの事業部や子会社の貸借対照表データを通常の継続事業と区分するものです。具体的には売掛金などの流動資産も建物などの非流動資産もまとめて『売却目的で保有する非流動資産』勘定としてまとめてしまいます。その上で区分掲記し、詳細な内訳については注記として明細を記載いたします。

3. 非継続事業とは?

『非継続事業』について説明しますと、来期以降には止めることが決まっている事業となります。止める理由としては事業の不採算による撤退や外部への営業譲渡あるいは子会社丸ごとの事業譲渡などが挙げられます。

この場合にも連結貸借対照表において『売却目的で保有する非流動資産』と言う科目を設けて、売却予定の資産をまとめて別掲表示にするのと同様に連結包括利益計算書については『非継続事業』に係る売上や費用、包括利益は別掲表示するものです。

こちらについても先の説明と同様になりますが、来期以降止めることが決まっている事業については売上、営業費用等は計上せずまとめてしまい利益部分のみ『非継続事業』による利益として区分掲記するものです。その上で、売上や営業費用等の詳細な情報については注記として科目別の明細を記載いたします。

ちなみに、連結キャッシュ・フロー(以下CF)計算書においても『非継続事業』に関するキャッシュ・フローは営業CF、投資CF、財務CFのそれぞれにおいて区分する必要があるものです。

4. 日本の開示の現在

日本においては現在はIFRS5号のような区分表示の規定はありません。従って、売却予定の資産も他の資産と特に区別は出来ませんし、同様に来期以降に廃業が決まっている事業分野に関する売上及び営業費用も株主や投資家と言った利害関係者たちは開示財務諸表を見ても判断することが出来ないのです。

勿論、日本もセグメント情報を開示していて現在はIFRSに習いマネージメントアプローチを採用しています。従って、連結財務諸表の作成などに精通している人であるならば、今後の課題などの有価証券報告書の文章を読んで、来期以降撤退を予定しているセグメントを割り出し、セグメント情報に記載されているセグメントと止める事業が一致すればセグメント情報として『売上』『利益』『総資産』などを読み取ることは可能です。

しかし、逆に言うと別掲表示を採用していない日本においては企業譲渡が決定した際のIR情報か上記セグメント情報を駆使しない限りは、売却予定資産や廃止予定事業に関する財務諸表情報を入手することが出来ないのです。

5. IFRSにおける評価と開示

IFRSは企業買収価値を算定するに適した会計基準と私は考えています。企業買収価値を算定するには将来の予測が必要です。現在の価値を算定するのではないため将来予測CF分析による公正価値による資産、負債評価が多用されるのではないかと思うものです。

公正価値評価による評価益の算出について私は時に懐疑的であり批判の立場を取ることもあります。なぜなら将来予測CF分析は外れることが多く、中には昨年の老舗光学メーカーの経済不祥事の手口のようにわざと高めの将来CF予測を行い高いのれんを計上して有価証券評価損隠しと言った粉飾に悪用されることもあったからです。

また、公正価値評価による評価益は実態以上の資産のインフレを呼びリーマンショック前の不動産投機ブームの呼び水にもなってしまったのではないかと思うものです。その上でリーマンショックなどの不動産下落時には逆に下げ幅を拡大し一気に信用不安を巻き起こしてしまうと考えるものです。いわゆるボラティリティ(変動幅)を増幅する役割を将来予測CF分析による公正価値原価は時に果たしてしまったと考えるからです。

このようにIFRSにおける評価の仕組みに対してはその弊害から時に懐疑的、批判的な立場を取る筆者なのですが、開示についてはその多くが理論的であり好ましいものであると考えるものです。

将来予測の観点からは、売却予定の資産を区分することも、廃止あるいは売却予定事業に関する利益を別掲表示にすることは合理的ですし、会計処理における評価益とは異なり企業財務のボラティリティの増加と言った目に見える弊害も思いつきません。

強いて言うのであれば、実務上の負荷の増加ですがこちらについてはこれだけに絞るのであれば、そもそも売却予定の資産や来期以降の事業の停止状況とそれが会社に与える影響は経営企画などの組織を中心に把握していると思うものです。

6. 最後に

しかし、IFRS5号による『売却目的で保有する非流動資産及び非継続事業』の別掲表示そのものについては前述のように納得できるものの、実務上の負荷の観点からはIFRSの開示全般については正直首を傾げるものが多いのもまた事実です。

こちらについては今回ページの関係で割愛いたしますが後日また機会を改めてご説明できればと考えるものです。


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